『 想いの強さ 』

2005年4月23日・ユミチャン記


望美に会える。弁慶が庭先に出て待っていると、
「弁慶さん、弁慶さーん!」
息を切らせながら再会の挨拶もない。
望美の開口一番は、
「敦盛さんが どんどん 大きくなって 戻らないんですー」
…。
垣根の3倍も高い所から、怨霊『水虎』になった敦盛が
2人を見下ろしている。
ドビックリな弁慶だが、そこは動揺をうまく隠して少し考える。

弁慶の家に神子が来る事を聞きつけていたヒノエ。
「おっ!いたいた。望美、久しぶり…!? 敦盛…なのか?」
大きな岩だと思っていた物が動き、上から視線を感じた
ヒノエが見上げる。
「お前、スッゲーなあー」
巨大化した怨霊の敦盛を素直にカッコいいと思うヒノエ。



「何か せめて もとの大きさに…出来れば人の敦盛さんに
戻れるような薬はありませんか?」
必死な面持ちで弁慶にすがりつく望美。
かわいい…。
と、思ってしまうのは八葉の性(さが)か…。
「フッ」と何か思い当たったように弁慶がニッコリ微笑んだ。
「うん…あれなら効くかもしれない。」
薬を取りに家の戸口へ向かう弁慶の肩が揺れている。
クスクスと笑っているようだ。
『何で???弁慶さん、笑ってる…こんな大変な時にー!』
望美は不安からくるストレスを弁慶の後姿にぶつける様に睨んだ。

薬を手にして戻ってきた弁慶は、望美の耳元に口を近づけて
その使い方をポソリと教える。
「誰もいない静かな場所で、望美さんが『口移し』で
飲ませてあげて下さいね。」
望美の顔がボッと赤くなった。
「どどど、どーして口移しじゃないとダメなんですか?!」
望美は弁慶をヒシとつかんでヒソヒソ声で怒鳴る。
「神子の清浄とした気を薬に含ませるためですよ。」
ニッコリと弁慶。どこかウソ臭いと思いつつ、
弁慶のウソは全部ウソだと思えない処があるので
複雑な表情を見せる望美。
「わかり…ました。」
顔を真っ赤にしながら望美はうなずく。

方や『水虎』の敦盛とヒノエは、こんな会話をしていた。
会話といってもヒノエが一方的に話していたのだが…。

「熊野で大きな船を造るのに人手がたりないんだ。
今のお前が手伝ってくれたら100人力だなあ…。
このまま体が戻らないようなら、望美と2人で熊野に来ないか?」
…みたいな。

そんな会話も聞き逃さない弁慶が、
「熊野は良い所です。敦盛くんも、くつろげますしね♪
そうだ。治療は熊野でしましょう。
何かあった時のために僕も同行しますから。」
それを聞き捨てならないとヒノエが叫んだ。
「おい。こら。そこの薬師!
あんたが居なくなったら町の人が困るだろう!
こいつらの事はオレに任せておけって。
何かあった時は熊野のカラスを使いに出すから。」
じーーーっと見詰め合うヒノエと弁慶。

「いいえ。僕にも休息が必要だと思うんです。」
じーーーっと見詰め合う2人。
「ガー。わかったよ。
言い出したらテコでも動かないんだから、勝手にしな!
でも、あんたに休息なんてないからな。
熊野の船男は怪我が絶えないんだ。
医者としてシッカリ働いてもらうからな!」
渋い表情でヒノエが折れる。
「フフフ。ヒノエは物分りが良くて嬉しいですよ。」
シャラリと言う弁慶。ニッコリ微笑む。

あんたの英才教育だろうーがと思いながら
ヒノエは弁慶に背を向ける。
「じゃあ。旅の支度が出来たら町に来いよな。」
右手を大きく振りながら、この場を去るヒノエ。




久しぶりの熊野で望美と敦盛はくつろいでいた。
そして船男に混じり造船を手伝う敦盛の体が
少しづつ変化していた。

「望美さん…。頑張っていますね。」弁慶。
「はい。最初は敦盛さんが恥ずかしがって
逃げ回るので、弁慶さんが言うように
寝こみや寝起きのボーっとしている時を
狙っていたんですけど、
最近2人とも慣れてきたと言うか…」
頬を赤らめて望美が笑う。

望美の報告を聞くたび弁慶はプププと
噴出しそうになるのを堪えている。
「あと ひといきですよ♪」
励ますように弁慶が言う。
「はい。そうなんですけど…やっぱり
人に戻ってからも、この治療は続けないとダメですか?」
モジモジしながら望美が呟く。

「はい。その薬は敦盛くんの抑圧された無意識を
開放してあげる効果があるんですよ。
敦盛くんが抵抗なく薬を飲めるようになるまで
望美さんヨロシクお願いしますね♪」
「はあ。はい。でも、一日に10回って…
多くありませんか?」
うつむきながら望美が言う。

「薬湯ですから…。今度は甘草を入れましたので
ほんのり甘いですよ。敦盛くんは苦い薬が飲めないから
服用の回数が増えてしまいます。
望美さんの手間が増えてしまってスミマセン。」
申し訳なさそうに言う弁慶。
だけどどこか楽しそうな表情は望美に見えていない。
「いえ。私も苦いのはダメなんで…それに敦盛さんが
治ってくれるなら手間なんて思いません!」
キリリとした表情に変わり望美が言う。
「それは良かった。」弁慶が優しく望美を見つめる。


望美を帰してしばらく。
ズカズカと足音をたてながら
「おい!そこの医者!」ヒノエが弁慶を呼ぶ。

「造船の一番大変な時に怨霊敦盛に手伝ってもらったのは
いいんだけど、もう治ってるだろう?
そろそろ、あんたら帰ってくれない?!」
じーーーっと見詰め合うヒノエと弁慶。



そしてクスクス笑い出す弁慶にヒノエは
「な、何だよ!…人になった敦盛は用済みなんだよ!」
しどろもどろとしている。
「はいはい。分かりました。ヒノエはまだ
神子姫様に未練があるようです。
2人を見ていられなくなったんですね。」
またクスクス笑い出す弁慶。
「なにがだよ!」ムキになりそうな自分にハッとして
声音を抑えるヒノエ「とにかくだな…」
言いかけた処に弁慶が「帰ってあげますよ♪」
言葉を重ねる。


弁慶が望美と敦盛の借り住まう小屋に近づくと
仲むつまじい2人の姿が見えてきた。
「投薬中を邪魔できませんね。」
フフフと弁慶が一人笑い
「ヒノエへの言葉…そのまま僕にも当てられそうだ。」呟く。

「この僕が木陰に隠れるなんて…ね。」
今度はクスクス笑い出し
「僕も少し望美さんに未練があるようです。」
人事のように言いながら、弁慶は時を待つ。


「敦盛さん。すっかりもとに戻って安心しました。」
頬を赤らめながらジッと敦盛を見詰める望美。
「私も怨霊になり、体が大きくなるたびに
神子が遠ざかるようで不安だった…。
人に戻れた今、前よりも神子を近くに感じる。」
ニッコリと微笑みあう2人。

そこへ遠くから呼びかける弁慶の声が聞こえてきた。
弁慶が2人のそばに来ると
「すっかり良くなりましたね敦盛くん。」ニッコリと笑う。
「ああ…はい。弁慶殿と神子のおかげだな。」
恥ずかしそうに敦盛が言う。

「僕は薬を作るだけですから。望美さんのおかげですよ。」
弁慶は望美に向き直って
「頑張りましたね」と微笑んだ。
それを受けて望美が返事をする。
「はい♪あっ。それで今日は?」
「そろそろ帰ろうと思います。」
「え?という事は敦盛さん、すっかり良くなったんですか?」
ニコニコしながら望美。

「いいえ。京に帰っても薬は飲んで下さい。
量は控えてもかまいませんから…。
2人の心が離れない程度に。」
弁慶のニコニコ顔がニヤニヤに変わり
とうとう噴出して笑い始める。
呆然と、その様子を見る望美と敦盛。

「ああ。スミマセン。笑ったりして。」
弁慶が涙を拭きながら少し落ち着いて言う。
「まさか滋養の薬が、そんなに効き目があるとは
思わなかったので…。」
弁慶…笑いすぎて少し息が乱れている。

「滋養の薬?」キョトンとする望美。
「健康茶のようなものだ」解説する敦盛。
「えーーーーなんで。どうして?どういう事??」
プチパニクル望美と困惑する敦盛を見て弁慶が
「本当の薬は『望美さん自身』だったという事です。」
すっかり薬師の顔に戻って言った。

「私自信が敦盛さんの薬だったと?」
自分を指差しながら望美。
弁慶はうなずいて「薬の効用については
お話していましたよね?」シャラっと言う。
「敦盛さんの よくあつされた むいしきを
介抱してあげる…ですか?」何か違っている。
「意味が良く分からなかったんですけど」

うーんと考え込んでいる望美の横で
ハッとした顔を赤らめる敦盛。
「敦盛くんは察しが良いですね。」
クスクス笑う弁慶が望美をなだめるように言う。
「いいんですよ。望美さんが分からなくても。」
「どーしてですか!あー。敦盛さんは分かったんですか?
どういう事なんですか?」望美は理解できない自分に
イライラしながらブンブンと腕を振る。

「まあまあ。そんなに知りたいなら
後でゆっくりと敦盛くんに聞いてください。
もう2人だけでも大丈夫ですね。」
敦盛の瞳の奥を覗き込む弁慶。
「敦盛くん。まず望美さんを受け入れて下さい。
怖がらないで…いいんですよ。」
じーーっと見詰め合う弁慶と敦盛。
面白くない望美はソッポを向いてブツブツぼやいている。

そしてもう一度、
「いいんですよ。」と弁慶が優しく言う。


「さて、僕は町の人たちが待っているので
先に帰らせてもらいますね。
2人とも、京に着いたら僕の家に立ち寄って下さい。
医者として敦盛くんのことが気になりますから。」
2人を気遣いながら立ち去る弁慶。

ぽつんと取り残された気分になる望美と敦盛。
「ねえ。」望美が弁慶の去った景色を見ながら言う。
「何だ。」敦盛も同じ姿勢で答える。
「弁慶さんが言っていた事…」確信にせまるという勢いの望美。
カーっと顔を赤らめる敦盛を見て、それ以上を聞き出せず、
モジモジとうつむく。
そんな望美の様子を見ていた敦盛は
弁慶の言葉を思い出した。
『いいんですよ。』



そっと望美の肩に手をかけて抱き寄せる。
初めて敦盛の方から触れられた。
「こういう事だが…。良いだろうか?」
敦盛が耳元でささやく。
少しビックリした望美だが、
敦盛の背中に手を回してギュッと抱きしめる。
「こういう事ですなんですか?いいですよ!」


こうして2人は仲むつまじく
手を繋ぎながら京に帰りましたとさ。

ーおしまいー





『あとがき』

敦盛とヒノエのセリフが『らしく』なくて、
ゲームをやり直してから少し手直ししました。
でも、まだ、どこか違うー(涙)

マンガ頭の脳ミソで書いた文だから情景描写は
なっていませんー。
背景はゲームの美しい景色の中で…
という事で、お客さんまかせです(汗)
シャラリと流して、ここまで読んでくださった人
ありがとうございます。
寛大な、お方…ホロリほろり(涙)

実は巨大化した『水虎』の敦盛が描きたかった
だけという物語なのです。
あと、敦盛と神子のラブも…
でも私が描けるのはここまでです!
敦盛とは純愛で…いたい…なあ…ぷぷぷ。



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